あきらめられない夢に
「ねえ、つぐみさんたちが出てくるのを待っていようよ」


カーテンコールが終わり、鳴り止まない拍手をすり抜けるようにして耳元で上越が囁いた。



以前は上越に用事があるからということで舞台が終わってから帰ってしまったため、そういうことがあることを知らなかった。

つぐみさんに会いたいという気持ちはあるものの、たった今舞台が終わったばかりなのに失礼ではないかという思いと、出てくるまでどれほど待たなければいけないのかが分からず返事に困ってしまった。


「大丈夫だよ。

ほとんどの人が待つし、そんなに待たなくても出てきてくれるから」


僕の心配ごとなど全てお見通しといった感じで、上越は嬉しそうに笑った。

そして舞台のほうに顔を向け、ひと際大きな拍手を送った。



拍手が少しずつ鳴り止んでいき舞台の終了のアナウンスが流れ、余韻に浸りながらも観客たちは出入り口へと移動を始めていた。


「行こっ」


ゆっくりと立ち上がり忘れ物がないか確認していると、上越は僕の右手を強引に奪い取りそのまま歩き出した。



今にもスキップしそうなくらい歩調は速く、無邪気に笑いながら出入り口へと向かう。

僕の右手が上越の左手に引っ張られ、大きく上下する。


「おい、そんなにはしゃぐなよ」


そんな言葉に聞く耳を持とうともせず、出入り口にはすぐに着いてしまった。



受付には劇団の裏方の人がいて、役者の出待ちをする人たちが乱雑して広がらないように整理していた。


「あれ・・・」


人混みの中に見覚えのある人物が見え、目を細めて確認をする。



やはり、間違いではないようだ。
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