あきらめられない夢に
「どうしてかな?君はいつもそうだね」


いつもの『宮ノ沢くん』という呼び方ではなく、初めて『君』と呼ばれたことで僕の予感は的中しているのだと分かった。



コーヒーを口に入れようとグラスに手を掛けるその先には、表情の曇り具合が僅かではなくなっているつぐみさんがいる。



僕たちに告げようかどうか、迷っているようにも見える。



告げたところで、何も変わらないことを知っている。



そして、それは仕方がないことと受け入れようとしている。



その表情から僕はありとあらゆることを想像し、連想する。

いや、これはそんなものではなく、きっと読み取れてしまったのだ。


「次の公演が、私たち松坂○○○劇団の最終公演にしようと思うの」


上越が両手を口に当て悲壮な顔をしているのに対し、僕は至って冷静にその言葉を受け入れていた。

そんな自分に嫌悪感を抱く。

例え、つぐみさんの考えが読み取れていたとしても、上越のように動揺するような人間で僕はいたかった。


「これは私たち親子の勝手な都合の話。

劇団はもちろん営利目的でやっているつもりはないから、公演を重ねて儲けようなんて劇団の誰一人と思っていない。

幸運にも私たちの劇団は、みんな演劇が大好きで意識が高い人たちばかりが集まった。

みんな少しでも・・・ううん、少しどころじゃない、とにかく良いものを観に来てくれる人たちに見せたいって思っている。

演劇はもちろん、舞台衣装やセットにもこだわりを持っている」
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