あきらめられない夢に
「だからこそ・・・」


つぐみさんが話しているところを遮るように、僕は誰かに抑えつけられたように重い口を開いた。

つぐみさんに全て言わせてしまうと、言葉の責任を全て背負わせてしまうような気がした。


「だからこそ、辛い」


「・・・」


つぐみさんは下を向いてしまい、僕たちは何も言葉を口にせず沈黙が続く。

あまりに耐えかねたのか、まだカップにコーヒーが残っているにも関わらず傍にいた店員にお代わりを上越が頼む。

そして、また沈黙が訪れた。


「うちみたいな小さな劇団では、みんなの希望を叶えるのは難しい。

みんなが演劇に熱を帯びている今ならば、もっと大きい劇団に紹介をしても胸を張ってやっていける。

そう判断したの」


辛く、悲しい決断が僕たちにある沈黙を打ち破る。

その表情、固く結んだ唇、力強く握り締めた掌。

そのどれもが、意思の固さの表れだった。


「そんなこと・・・」


「上越。俺たちが何を言っても無駄だよ」


「無駄って・・・」


「つぐみさん、最終公演は絶対に観に行きます」


下を向いていたつぐみさんに、小さいながらも笑みが戻った気がした。



これでいいのかどうかは分からない。


「最終公演はまだ何をやるか分からない。

個人的には最後にやりたい作品があるけど」


分からないからこそ僕たちは、ただ見守るしかないのだと思う。


「私一人じゃ決められないから」


そう言うつぐみさんの表情にもう一遍の曇りもなく、覚悟を決めたように引き締まっていた。

その横で涙を流す上越の髪の毛を、つぐみさんがそっと撫でた。
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