あきらめられない夢に
目を閉じていると、彼女が言葉にできない何かを小さく発しているのが聞こえてくる。

そして、太股かどこかを軽く叩くような音が聞こえ、それからすぐに僕の額に中指を力強く振り抜かれた。

見事に僕の額からは乾いた音が響き渡り、今度は苦痛に顔を歪めて目を閉じた。


「何勝手に緊張してんだよ」


目を開けると、いつもと変わらない彼女が両手を腰に当てて仁王立ちしていた。


「ごめん、ごめん。それで相談って、何だよ?」


いや、座っているのだから仁王座りとも言うべきか。


「いや、俺ももう今年で二十四だから、そろそろ女らしくならないとなって思うんだけど」


意外過ぎる言葉に僕は「えっ」と少し笑いながら口から出てしまい、彼女はテーブルを右手で叩いた。

顔を見るとこちらを睨んでいて、笑いながらだが頭を軽く下げた。


「沢良木がそんなこと思っているとは、失礼だけど意外だったよ。

だけど、嫌味とかじゃなくて、その考えは凄くいいと思うよ」


表情が少しずつ和らいでいき、ため息をつきながら視線を窓の外へと向けた。

その先には店の前を通っている大通りを走る車が、退屈な映画のように流れていく。
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