あきらめられない夢に
「ちょっと、園木くん。今日は打ち合わせでしょ」


聞き覚えのある声に視線を向けると、呆れたような表情で上越が立っていた。

三重に帰ってきてから、上越が誰かと一緒にいるところというのはつぐみさんしか見たことがなかった。

それだけにこの二人の組み合わせは新鮮なものだった。


「あれ、宮ノ沢くんも一緒だったの」


「いや、俺は会社の人とたまたま先にいただけだよ」


「そうなんだ」と呟き、上越は視線を沢良木へと向けた。

その視線に沢良木も気付いたのか、二人の視線が合った。

お互いに相手を観察するような目で見て、何か微妙な空気が流れているように感じる。


「そうだ。ゴールデンウィークに高校の同窓会しようと思うの。

幹事は私と園木くんで、今日はその打ち合わせなの」


そう言われても、園木はまだ沢良木に挨拶をしていた。

明らかに沢良木は興味がないという表情をしているというのに、それすら気付かないまま。


「そうだ。どうせなら宮ノ沢くんも一緒にどうかな?

あれだったら、連れの人も一緒に」


園木の挨拶にうんざりして無表情に近くなっていた沢良木の眉間が、ほんの僅かだが力が入り動いたような気がした。

そうでなくても、この誘いは少々失礼ではないかと思う。


「いいよ。こっちはこっちで話があるから。

おい、園木、もう行けよ」


今の園木ははっきりと面倒くさいという態度を取らなければ気付かないため、露骨に嫌そうな声を出した。

園木もその声でいつもの自分を取り戻したようで、視線でこちらに謝ってから上越と少し離れた席へと移動した。

僕は大きくため息をつき、冷めてしまった料理の残りに手をつけた。
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