あきらめられない夢に
「気を遣わせて、悪かったな」


申し訳ないというよりは、不機嫌そうな表情で沢良木は僕に謝ってきた。

そして、アヒルのように口を尖らせて、またしても窓の外へと視線を向けてしまった。


「別に気を遣ったとかじゃないよ。

話はまだ終わっていなかったし、それに沢良木と話をするためにここに来たんだから」


その言葉に機嫌を取り戻したのか、視線は窓の外だったが笑ってくれていた。

それを見て安心し、僕も笑った。



そのとき、遠くで園木がトイレに行く姿が見えた。


「悪い、ちょっとトイレに行ってくるわ」


こちらを見ずに掌をひらひらとさせたので、僕はトイレへと急いだ。

別に急がなくてもいいのだけど、ゆっくりしてもいいというわけでもないのでとりあえず急いだ。


「園木」


用を足している園木に声を掛けると、便器から視線を外さないまま「何?」と答えてきた。

賑やかな店内とは違って、異様なまでに静かだった。


「お前、沢良木に惚れただろ」


「あの人、沢良木さんっていうのか」


用を済ませ手を洗うが、それでもこちらに視線を合わせてこない。

こういうときの園木は、高校時代だったら恋の病に陥ってしまっている証拠だ。

しかも、かなり重症。
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