あきらめられない夢に
春という言葉にはあまりに似つかわしくない雨の日、僕はつぐみさんに呼び出された。

前日に電話があり、会って直接話をしたいことがあると言われたのだ。

しかし、何を話されるのか見当がつかず、期待なのか不安なのか分からない激しい鼓動を抑えながら彼女を待っていた。


「ごめんなさい」


その声とともに、申し訳なさそうに僕の前にやってきて頭を下げた。

頭を下げるのを制止しようと右手を出すと、脇に挟んでいた今日の試験の問題やらが地面に落ちて散らばってしまった。

慌てて二人で拾い集めているとこちらまで申し訳なくなり、これで「おあいこ」なのかな、と都合の良い方向に思ってもみた。


「本当にごめんなさいね。

午前中、試験だったんでしょ」


「試験前だったら流石に厳しかったけど、もう終わったあとですから平気です。

それにまだ本命じゃなくて、腕試しのような試験ですから」


本来ならば試験会場までは車で行き、待ち合わせ場所を決めて向かうつもりだった。



けれども、どういうつもりで言ったのか分からないが、彼女の「試験会場まで迎えに行くわ」という言葉で僕は車ではなく電車で向かうことを決めた。

そして、試験が終わってからも、こうして入口の前で彼女を待つことを選んだ。
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