あきらめられない夢に
「よくここに辿り着きましたね。

ナビの目的地設定とか苦労したでしょ」


機械音痴を馬鹿にするようにして、僕はナビを撫でながら話した。

ちらりと横目で見ると、彼女は少し頬を膨らませながらシートベルトを締めている。

その姿がまた可笑しくて、それでいて愛おしかった。


「私だって、これくらいできるわよ」


と自慢げに話し、ハンドルを持つ。

ナビから手を離し、僕もシートベルトを締めて車が会場からゆっくりと遠ざかっていく。


「どれくらい掛かりました?」


「・・・」


「どれくらい時間掛かりました?」


二度目はわざとゆっくり分かりやすく口にすると、彼女は拗ねたように視線を僕とは反対のほうへと逸らした。


「・・・一時間くらい」


ナビの前で四苦八苦している彼女の姿を想像して、それがやはり可笑しくて吹き出してしまった。

彼女は少しだけだった頬の膨らみを大きくさせ、何も言わずに運転を続けた。

終始その横で僕は、ずっとにやにやと笑っていた。
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