あきらめられない夢に
「○○○劇団さんの最終公演に選ばれるかもしれないと聞いて、改めて手直しをしてきました」


それは、この一週間を掛けて誤字脱字の修正や、内容を吟味して手直しをした『あきらめられない夢に』の原稿だった。

ゆっくりと僕の手から原稿を取り、顔の前で品定めをするような目で見る。


「一週間前につぐみさんから話を聞いたとき、凄く嬉しかった。

本来ならその場で返事をしたかったんです。

でも、嬉しさ以上に怖さがあってできませんでした」


「・・・」


「そのときはどうして怖いのか分からなかったんですけど、家に帰って気付いたんです。

僕はその作品で携帯小説サイトに取り上げられたけど、その一度だけでそれ以降は全く読まれなかった。

自分の実力の無さが怖かったんです。

そんなものを出していいのか、出したはいいもののやっぱり面白くないって言われることが怖かったんです。

でも、怖いから逃げていちゃいけない。

怖いなら、自分のやれるだけのことをやり切ろう。

納得するまでやろうって・・・」


視界が薄らと滲んでいくにつれて、声が掠れていくのが分かった。

涙を拭い、鼻を啜り、再び話し始めようとしたところで団長が僕の肩を軽く叩いた。



「僕も一度も怖くないと思ったことはない。

自分を卑下して言うわけではないが、逃げずに書きあげた君は立派だ。

後は任せてください。

君の素晴らしい作品、素晴らしい世界を損なわないような台本に、舞台に我々が引き継ぎます。

本当にありがとう」


気付いたら僕は膝をついて泣いていて、廊下から団員の人たちが入ってきて、僕たちを取り囲んでいた。

みんなが盛り上がっているなかで、つぐみさんも僕と一緒で泣いていた。
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