あきらめられない夢に
「じゃあ、ちょっと休憩」


その言葉とともに団長はこちらに向かってきた。


「イメージ通りじゃないところがあったら、何でもいいから遠慮なく言ってくれていいから」


その後ろでは台本に何かメモをするつぐみさんの姿や、お互いに台本を見ながら身振り手振りしている団員の姿があり、みんな休憩というのに熱心だった。

その姿を見て、そんなことが言えるはずもない。


「イメージ通りじゃないと言えば、イメージ通りじゃないかもしれません。

台本や団員の皆さんが、僕の頭の中の世界をイメージ以上に表現してくれていますから」


聞こえたのかどうか分からないが、つぐみさんがこちらに向かって軽く微笑んだ。

僕も笑い返すと、目の前の団長さんと目が合って恥ずかしくなってしまった。


「休憩、待っていましたっ」


大声とともにドアが勢いよく開くと、そこには仁王立ちのように堂々と立っている上越がいた。


「皆さん、差し入れです」


団員のところへ移動し、背中に隠して持っていたビニール袋の中身を出した。

みんなが笑いながら上越へと近づき、それぞれが一つずつ差し入れを取っていく。

いつの間にこんなに劇団に馴染んでいたのだろう。


「最近、毎回来てくれているからね。

ああいう性格だから、すぐにうちの団員たちとも打ち解けちゃった」


差し入れを二つ持ってきて、僕の隣につぐみさんが体操座りで床に腰を下ろした。

つられて僕も一緒に腰を下ろし、みんなのほうを眺める。
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