あきらめられない夢に
「そうね、分かったわ。

ごめんね、変なこと頼んじゃって」


「いえ、私のほうこそすみません。

それに仮に出られても、この役は私じゃないような気がするんです」


台本を開き、その役が登場するページを何ページか読んでみる。それと同時に小説の『あきらめられない夢に』を思い出し、その人物のことを目に浮かべる。

一瞬、周りの声が聞こえなくなるくらいに集中し、イメージを描いたとき僕の頭の中にある人物が出てきた。


「沢良木だ」


「えっ」


二人は不思議そうな表情でこちらを見てくる。



間違いない。



演劇に対して素人ということを差し引いても、この人物に当てはまるのは沢良木しかいないと僕は本気で思った。


「明日、この役に適任かもしれない人を連れてきてもいいですか」


沢良木にとっては迷惑な話になるかもしれない。

いや、女性らしくなりたいと言っていたから、そこをつぐみさんに見てもらうことにすれば沢良木にも悪い話にはならないだろう。



僕は手に持っている台本のその役の台詞の下に、持っていたペンで大きく『沢良木』と書き込んだ。
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