あきらめられない夢に
今日の積み込みは僕にとって大勝負だ。


昨日、つぐみさんに適任かもしれない人物を連れていくと約束したが、肝心の本人に今日の都合を聞かなければいけない。

ところが、その本人、沢良木は積み込みが終わると瞬く間に配送に出発してしまい、声を掛ける時間がない。

夕方では急だろうし、積み込み中に仕事以外の話をするなど彼女にとっては以ての外だろう。

昨日あれから連絡すれば良かったのだが、残念ながら僕はこういうことは面と向かって言わなければいけないという古臭い人間だった。



しかし、この大勝負は声を掛けられなければ意味がない。



積み込みの速さで彼女に敵うはずがない。

だが、それは同時に積み込みを始めた場合のこと。

卑怯だが、僕は彼女よりも少し早く出勤をし、積み込みを始めたのだ。



古臭い人間なのだが、僕はそういうところは都合のいい人間でもあった。



その甲斐あってか、僕は彼女とほぼ同時に積み込みを終えることができた。


「危なかった」


積み込みが終わったとき、思わず声を漏らして天を仰ぐ。

まだ四月だというのに額の汗は滴り落ち、そのまま頬を伝って地面に落ちようとしていた。

僕がこれだけ急いで積み込みをしても、呼吸を乱すことなく淡々とこなす彼女よりも遅いという事実は悲しかった。
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