あきらめられない夢に
そんな彼女が初めて首を横に振った。


「あの・・・」


代わりに僕が行きます


と言い掛けたところで主任から車のキーが投げつけられて、慌ててそれを掴み取る。

トラックのものでもないし、もちろん僕のものでもない。


「沢良木の忘れものだ。

あいつのことだから、次に俺と顔を合わせたら大事な用事を投げ出しちまうから戻って来れないんだろう。

早く持っていってやれ」


僕の右肩を軽く叩き、そのまま主任はプレハブ小屋を出て倉庫へと向かっていった。



キーを握り締めたまま、僕は慌てて着替える。

雨音が小雨というには大きい音で響き出してきた。

確か、沢良木がプレハブ小屋を出るときは傘を持っていなかったはず。

急がないとずぶ濡れになってしまう。



大急ぎで着替えを済ませ、適当に並べてある傘を一本取ったが、差さずにそのまま会社から数百メートル離れた位置に存在する駐車場まで駆け足で向かった。



この天候のためか、普段ならもう少し明るい景色も、薄暗くなっていた。



ぽつりぽつりと置き換えるには十分すぎて、煌々と光り輝くと表現するには大袈裟すぎる街中の明かりのなかで、僕はプレハブ小屋を出ていく瞬間の沢良木の表情を思い出す。
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