あきらめられない夢に
鼓動が強く、音がはっきりと聞こえてくる。



それは彼女も同様で、僕の背中にはっきりともう一つの鼓動が伝わってくる。



二人のそれの速さは違い、噛み合いそうで噛み合わず、どちらかが鳴るたびに僕は掴んでいる彼女の手を軽く握り締めた。



二人の鼓動が噛み合ったとき、僕はもう一度彼女の腕を解こうと試みた。

意外に今度はあっさりと解け、後ろを振り返って僕はポケットからタオルを取り出して彼女の髪の毛に当てた。


「ずぶ濡れじゃん」


できるだけ軽い感じで笑いながら、彼女のトレードマークでもあるポニーテールを崩さないように優しく拭いていく。

その間、彼女は無表情のままで僕から視線を逸らそうとしなかった。


「初めてなんだってな、お前が仕事を断るの。

俺のことだったら、別に後日でいいよ」


その言葉に眉が少し上がり、小さく彼女は目を見開いた。

そして、次には僕からタオルを奪い取り、勢いよく背を向けた。


「お前が誘ったんだから、そんなこと言うなよ」


彼女の声が震えているように聞こえる。



彼女の肩が震えているように見える。



それは泣いているということなのだろうか。



彼女の肩に手を掛けようと伸ばしたとき、先ほどと同じような勢いでこちらに振り返ってきた。


「それに別にお前のためじゃねえ。

俺のためだろ?」


何て悲しい笑顔なのだろう。



以前にも、どこかでこんな笑顔を見たような気がする。
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