あきらめられない夢に
「あの日だって?」


それが全て演技だと分かっていても、思い出すだけで僕は胸の鼓動が激しく動き出してしまう。

沢良木の演技力は相当なものなのだ。



だけど、そのことはつぐみさんには話さないほうがいいような気がして、僕はそっと胸に仕舞った。


「いや、別に何でもないですよ」


変に勘ぐられないようにわざとらしく言い放ち、「何よ」と頬を少しだけ膨らませた。


「きっと」


限りなく続く青い空を眺め、その空に羨ましさを感じているような表情で呟く。

その表情で眺められている空に、僕は嫉妬してしまいそうだ。

それほどまでに、今の彼女の表情はたまらなく愛おしかった。


「きっと、彼女が頑張れるのはあなたのおかげじゃないかしら。

稽古が終ったあとの彼女、私にあなたの話ばかりしてくるもの」


つぐみさんと沢良木が二人きりで話しているところを僕はまだ見たことがない。

そのためか、その二人の構図が珍しく思えて新鮮だった。



稽古が終わったあとの二人の会話は、一体どういう話をしているのだろうか。

沢良木が話す僕のことといえば仕事のことしか想像がつかず、それらが大抵は馬鹿にしていることに違いない。


「沢良木のやつ、俺のこと馬鹿にしているでしょ」


半分は本気で、半分は自虐の言葉だ。
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