あきらめられない夢に
このまま



このまま、温もりごと目の前にいる彼女を抱きしめられたらいいのにと思う。

この腕で、この体で、力強く抱きしめられたらいいと思っている僕は、いけない男だろうか。


「今日、同窓会でしょ。

まくりちゃんから電話がきたってことは、そろそろ時間じゃないの」


そっと手が離れていくが、温もりは残ったままだった。

彼女の元に戻った手を見ながら、少しだけ溜息が洩れた。



今、思ったことはまだつぐみさんには言わないでおこうと、僕は一人心のなかで決める。


「あっ、本当だ。

ごめん、折角こっちに来てもらったのに」


「ううん、ちょうど猿田彦にも行きたかったから」


猿田彦神社は僕たちが初詣に行った神社だ。

初詣とかでもなく、特に何もないこの時期に一体何の用事があるのだろうか。


「あと、俺、実は来週から一人暮らしするんだ。

今思えばもっと早くに、もしくは最初からしていれば良かったと思う」


驚く反応を想像していたが、落ち着いた表情のままだった。

優しく僕を見送るように、彼女はゆっくりと僕の荷物を差し出してきた。


「親以外には話さずに入居してからみんなに言うつもりだけど、つぐみさんには言っとこうと思って。

今度、遊びに来てね」


彼女に見送られながら、僕は同窓会へと向かった。
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