あきらめられない夢に
「最初に来るのは誰かな」


嬉しそうに入口を見つめている姿に、僕は高校時代の制服姿の彼女を重ねてしまう。

もし、あの頃の彼女が今の僕の前に姿を現したら、あのときと同じ感情を抱き、あのときと同じように思いを告げるのだろうか。



高校時代の決して甘くない思い出。



その思い出と現在が、今日だけは頭のなかでごちゃ混ぜになってしまうかもしれない。

そんな状態で少しでも酒に飲まれてしまえば、思い出に身を委ねてもう一度目の前にいる彼女に告白してしまいそうだ。



でも、それは現在の自分ではなく、彷徨ってきた思い出のなかの自分なのだろう。


「俺、今日は酒飲まないから」


そうなることだけはお互いのために防ぎたい。

僕は宣言することで、それを防ごうと決めた。


「えええ、飲めばいいじゃん。

じゃあ、何のために歩いてきたのか分からないじゃん」


「いいの。

幹事が二人も酔っていたんじゃ、収拾がつかないだろ」


「ちぇっ。というか、すっかり幹事になっているじゃん」


拗ねるように放った彼女の言葉が今の自分を客観的に見せた。

幹事でもないのに幹事のようにしているという自分がいて、恥ずかしくなり口を真一文に結ぶ。

それでも僕は気付かないようにして、幹事のふりを続けることにした。


「二十分前か。

まあ、この歳になると仕事で時間に追われる分、こういうときくらいは何も気にせずにいたいもの。

必然と、仕事以外のことは時間にルーズになるからな」


仕事以外は時間にルーズになりたい


それはお前が一番思っていることだろ?



そう続けようとしたが、そんなことをわざわざ人には言われたくないだろうと言葉を飲み込み、出欠などの準備を進めていった。


「あっ、来た」


嬉しそうに彼女が声を発し、入口を見ると女性が一人こちらに気付いて向かってきた。
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