あきらめられない夢に
「噂をすれば、後瀬山ゆっこじゃん」


「はあ?何かその言い方、むかつくんですけど。

それに今は後瀬山じゃなくて公寄(きみよせ)だから」


「何だよ、変わっても結局は珍しい名字じゃないか」


「あんたも人のことを茶化すなら、さっさと結婚したらどう?」


相変わらず口の悪い女だ。

僕が結婚したかどうかまだ口にしていないのだから分からないのに、していないと決めつけている。

もっとも、口の悪い女には職場で十分に慣れてはいるが。


「はい、会費。

宮ノ沢、くすねるんじゃないわよ」


「そういうことを真顔で言うなよ。

というか、卒業以来なのに扱いが酷くないか?」


「久し振りに会って高校時代と変わらずに話せるなんて、それは良いことじゃない」


何だか向こうの都合の良い方向にまとめられてしまい、そのままゆっこは上越とは反対側の僕の隣に座った。



しかし、ゆっこの言った通りだと思う。



昨年の九月にこっちに帰ってきたときは、こんな風に高校時代のクラスメートと話せる日が来るなどと微塵も思っていなかった。

誰にも会いたくないとさえ思っていたのだから、例え扱いが酷くてもそれは良いことなのだろう。
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