あきらめられない夢に
「あんた、ちっとも鈍ってないね」


「そっちもな」


少し離れたところで傍観している僕の隣にゆっこが近づき、二人はお互いのグラスの飲み口を軽く当てて乾杯をした。



思い返せば、ゆっことはこうしてよくクラスメートをからかっていたものだ。


「おいおい、宮ノ沢」


今度はゆっこの向こう側で大声が聞こえてきた。

その声に上越に向いていた視線がそちらに集まり、僕も向けてみると園木が顔を真っ赤にして立っていた。

覚束無い足取りを見ると、相当酔っているのだろう。


「お前、ゆっこと一緒にいていいのかよ」


その言葉に胸騒ぎがする。

こいつは僕の秘密を知っていて、それはここにいるクラスメートは誰も知らないことだ。

その大声のせいで全員が今は園木に注目しているため、万が一のことがあったら全員に知れ渡ってしまう。

そうなってしまったら、気まずいどころの話ではない。


「高校時代の気持ちを忘れたのかよ。

上越に」


寸前のところで園木の口をおさえ、みんなに向かって愛想笑いを浮かべる。

しかし、時既に遅く、みんなの興味は完全にそのあとに続く言葉になってしまっていた。
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