あきらめられない夢に
「さすが、宮ノ沢くん。

分かっているね」


一口にしては多い量を飲み、彼女はベンチの手すりに頭をつけて目を閉じた。


「振ったことなんて、忘れていたんだろうな」


小さく呟き、缶コーヒーを開け、一口飲む。

無糖を買ったつもりが、どうやら微糖だったようで、口一杯に甘さが広がった。

いつもなら毛嫌いする甘さも、今は不思議と自然に受け入れることができた。


「ごめんね・・・」


彼女は目を閉じたまま呟き、僕の手を弱い力で握ってきた。



静かすぎる夜だ。



耳が疼くほどの静かな夜は、お互いの呟きをはっきりとした言葉として伝える。


「覚えていたのか」


静かなままだったが、握っていた手に力が入る。


「いつから?」


「ずっと。

忘れたことなんてなかった」


その言葉に今度はこちらが手に力が入ってしまい、思わずその手を離してしまいそうになる。

彼女はベンチの手すりから頭を起こし、もう片方の手と両方で離れそうな手を掴んだ。


「じゃあ、謝るなよ」


僕は前を見て、川の流れに耳を傾けようとした。



何か音が欲しい。



彼女の言葉以外の音が欲しい。



それは、彼女の神妙な顔つきから次の言葉が怖くなり、拒絶しているのかもしれない。
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