あきらめられない夢に
「あのとき、お互いが目指すものを持っていた。

私は競艇選手、宮ノ沢くんは作家。

私はこの夢を諦めたくなかったし、宮ノ沢くんにも妥協せずに本気で目指してほしかった。

あなたにとって私は重荷になりたくなかったし、もし私が試験に落ちたときあなたを理由にしたくなかった。

本当は私も好きだった。

そして・・・今も好き」


僕は目を閉じた。


「去年、三重に帰ってきたばかりのあなたに会って、本当に嬉しかった。

奇跡だとさえ思った。

でも、あなたはとても辛そうで、私にはそれをどうにかすることもできなかった。

だから、つぐみさんを紹介したの」


今、真っ暗な目の前には上越ではなく、つぐみさんがはっきりと思い描かれていた。

僕はつぐみさんと出会い、話し合い、笑い合い、時には互いに涙して、月日を重ねるにつれ、その存在が大きくなっていった。

そして、それはただ単に大きくなっていくだけじゃなく、大切で、なくてはならない存在になっていったのだ。


「もう、私じゃないんだよね」


「・・・」


「それを知りながら、いつでも私はあなたの気を引こうとしている。

今日も送ってもらうために酔ったふりまでして。

こんな私なんか、大嫌い。

あなたもこんな私なんか嫌いでしょ」


高校時代の僕が、今の僕の肩を叩く。

切ない気持ちを抑えて、彼は笑顔で僕から遠ざかっていった。



あのときの両想いは、七年という月日で形を変えたのだということを知ってしまった。
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