あきらめられない夢に
「上越の気持ちを聞けて良かった。

でも、ごめん。

今の俺は、やっぱりつぐみさんが好きだ。

お前のおかげで、はっきりしたよ」


目を開け、彼女の顔を見る。



目を逸らしてはいけない。



彼女から目を逸らすことは、今の気持ちからも逸らしてしまうことだ。



だから、決して逸らしてはいけない。



彼女の目が瞬く間に潤み、それが一杯になり一滴の涙となって流れた。


「馬鹿」


拭っても、またすぐに溢れてきてしまう。

その動作を止め、彼女は両手の掌で目を抑えつけた。


「馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿ぁ!

最後に一度でいいから、私のこと『まくり』って呼べぇ」


泣きじゃくっている彼女に、僕は感謝しなければいけない。



僕は小さく微笑み、立ち上がった。



僕が差し出した手を借りずに、彼女はゆっくりと立ち上がった。

そして、そのまま川のほうへと向き、大きく深呼吸をした。


「私は、やっぱり二人とも好き。

だから、頑張れ」


それから家に着くまで彼女はずっと泣き続け、僕は一言も話さずに横を歩いていた。

それでも僕たちの間には気まずさなどは無く、彼女を家まで送り届けて、僕たちの散歩は終わった。
< 187 / 266 >

この作品をシェア

pagetop