あきらめられない夢に
「これ、ここに置いたほうがいいんじゃない?」


「じゃあ、そこで」


天気も良く、引っ越しは順調に進んでいった。



会社からトラックを借りられたおかげで引っ越し業者を呼ばずに済み、それだけでかなりの節約になった。

午前中の荷物の出し入れには園木が手伝いに来てくれ、入れ替わりで午後から来たつぐみさんは部屋の配置を考えてくれた。


「キッチンは綺麗になったわね」


冷蔵庫や洗濯機などの重いものだけは園木と二人で配置し、それ以外の荷物は全て一つの部屋に詰め込んだ。

それらを一つずつ取り出し、彼女の指示通り配置していった。


「ちょっと、休憩しよう」


キッチンの整理が終わり、きりの良いところで僕は床に両手をつけて腰を下ろした。

そのまま配置したばかりの冷蔵庫から、スーパーの袋に入った缶ビールを取る。


「こら。あと二部屋もあるんだから、ビールは我慢しなさい」


その言葉に僕は「ええ」と駄々を捏ねてみたが、彼女は冷蔵庫に寄り掛かるように座り、僕は缶ビールを断念せざるを得なかった。

代わりに彼女は自分の荷物からペットボトルのお茶を取り出し、キャップを開けて僕に渡してきた。


「それにしても、いい部屋見つけたわね」


「うん。キッチンに洋室二部屋、全て六畳で家賃はちょうど四万円。

外装も部屋自体も綺麗だし、東京だと考えられないよ」


実家での僕の部屋は五畳あるかないかの狭い部屋で、上京してからも東京では家賃が高く、六畳の部屋がやっとだった。

そのため、僕は広い部屋に憧れていた。
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