あきらめられない夢に
部屋中を見渡し、その広い空間に思わず頬が緩んでしまう。


「はい、にやけていないで続きやるよ、続き」


そんな緩んでいた頬を抓って彼女は立ち上がり、次の荷物へと手をつけ始めた。

抓られた頬を擦り、ペットボトルのお茶を一口飲み、僕も立ち上がり彼女の隣へと移動する。



横に並ぶと、彼女はこちらを見て小さく笑った。

それを見て、僕も笑い返す。


「ありがとう」


「まだ、終わっていないよ」


照れるように感謝の言葉を呟くと、即座に彼女から返事がきて、それと一緒に優しく僕の額に彼女の右手の掌が当てられた。



このまま時間が止まってしまえばいい。



このままの時間がずっと続けばいい。



そんなことを思うくらい、今の僕は最高の気分だった。


「それはそこに置いたほうがいいわね」


指を差し、僕は寸分違わぬ位置へと持っていった。

しかし、彼女は首を傾げて何度も唸ったあげく、また別の場所を差した。

そこでも同じように首を傾けて、この配置が決まるまで、僕は三回彼女の差した場所へと移動した。



何も無く、殺風景だった部屋に荷物が入り、どんどん色が塗られていく。

塗られていくにつれ、これから始まる新生活へと期待は高まる。



朝起きたら、ここから会社へと向かう。



仕事が終わったら、会社からこの部屋へと帰ってくる。



土日にはつぐみさんが遊びに来て、二人で一緒に過ごす。


「宮ノ沢くん、次はこれよ」


頭の中が随分と先走ってしまい、危うく現実から遠のいてしまうところだった。


彼女がいつ来ても平気なように、小まめに掃除はしよう


そう固く決意をした。
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