あきらめられない夢に
彼女の画像を見ていると、携帯電話の画像が着信を知らせる画面になり着信音が僕の目の前で鳴り響いた。


「もしもし、今どこにいる?」


車に直接やって来られて上越の画像を見ている姿を見られたらまた面倒なことになりそうだったので、この電話は僕にとって正直助かった。

辺りを見渡すと、まさに駐車場の入口に入ろうとする九宝さんを見つけた。


「あっ、その入口から動かないでください。

今、そっちに向かいますから」


彼女の返事を聞いてから電話を切り、駐車場の入口へとゆっくり車を走らせた。

近くで見る彼女は、以前に会ったときと同じように大人びた雰囲気を纏っていた。


「ごめんね、わざわざ迎えに来てもらって」


後ろから車が来ているということもあり、そう言いながら彼女はすぐさま助手席に乗り、素早い手付きでシートベルトを締めた。

シートベルトを締める彼女を確認し、車を熊野街道へと移した。


十時五十六分


車内の時計の時刻は約束の時間よりも四分早い時間を示していた。


「早かったですね」


「私が言いだしておいて遅刻したんじゃ、ばつが悪いじゃない」


お互いが小さく笑い、僕はラジオの音量を少しだけ小さくした。



ぎこちない手付きで運転しながらカーナビで目的を津競艇場に設定しようとしていると、彼女は何も言わずにその役目を変わってくれた。

「ありがとうございます」と言おうとしたのだが、その手付きがあまりにも不器用で、運転しながらの僕よりもぎこちなかったので思わず吹き出して笑ってしまった。
< 19 / 266 >

この作品をシェア

pagetop