あきらめられない夢に
太陽が夕陽へと変わる少し前にして、大体の家具や荷物の整理が終わった。

大した量ではないと思っていたが、実際に運び、整理してみると二人でもこの時間まで掛かってしまった。


「やっと、終わった。

つぐみさん、ありがとう」


倒れ込むようにして、真新しいソファーに腰掛けた。

隣の部屋に設置してあるテレビがソファーの正面になり、腰を掛けながらゆったりと見ることができる。

そのソファーの目の前には、一人には少し大きめのテーブルが置いてある。

この広々とした空間に、初めての一人暮らしのような気持ちになってしまう。


「ねえ、冷蔵庫にお茶とビールしかないけど、今日の夕ご飯はどうするつもりなの?」


冷蔵庫の中を覗き込みながら、彼女は首を傾げながら問いかけてきた。

引っ越しのことで頭が一杯で、今日の夕食のことまで考えていなかった。


「今日は疲れたし、ビールさえあればいいや」


一緒に冷蔵庫の中を覗き込み、昼間に冷やしておいたビールを二本取り出す。

そのうちの一本をつぐみさんに差し出したが、丁寧に断られた。


「この後、稽古?」


「ううん、今日は午前中だけ。

だけど、夕ご飯の支度をしなくちゃいけないから」


「そっか」


引っ越しを手伝ってもらったついでに泊まっていくのかと期待していたが、どうやらそれは外れだったようだ。
< 190 / 266 >

この作品をシェア

pagetop