あきらめられない夢に
「それ、あげるよ。

今日のお礼」


彼女は言葉ではなく、表情で「いいの?」と聞いてきた。

僕はそれに対して「いいよ」という表情で、彼女に答えた。

僕が持っていても、結局は今日のように段ボールに入ったままだ。

それだったら、彼女に目を通されたほうがルーズリーフとしても幸せだろう。



部屋の隅で壁に寄りかかりながら、夢中になってルーズリーフに目を通している。



そんな彼女に今は何を話し掛けても無駄だろうと思い、キッチンへと移動してコーヒーを淹れることにした。

実家にいるときは自らコーヒーを淹れることをしなかったが、家具を揃えるために立ち寄った中古販売店でコーヒーメーカーが安く、思わず衝動買いをしてしまったのだ。



淹れたてのコーヒーをテーブルの彼女に一番近い位置に置き、ソファーの上ではなく下の部分に寄り掛かるように座り込んでビールに口をつけた。

何軒かコーヒー豆を買いに覘いたのだが、『アリエス』で飲んでいたロブスターWIBは置いていなかったので、最後に入った店にお薦めを頂いてきた。

どうやら、あまり置いていない品種だったようだ。


「あっ、いけない」


何一つ音を立てなかった彼女が、急に叫び出した。



時間を見るともう七時になろうとしていて、これから彼女が何をしなければいけないというのが分かった。


「はい」


持ってきた荷物を差し出す。


「ありがと」


受けとろうと彼女が手を伸ばす。
< 192 / 266 >

この作品をシェア

pagetop