あきらめられない夢に
照れながらもその手付きで津競艇場を目的地に設定し、どうだと言わんばかりの堂々とした表情があまりにも面白く、またしても僕は吹き出してしまった。


「き、機械は苦手なのよ」


大人びた彼女と、子供のような彼女。

その両方が彼女らしく思えてとても不思議な気分になってしまうが、今のこの二人の雰囲気を変えたくはないので胸の中にそれをしまい込んだ。



津競艇場までの時間は終始他愛もない会話だった。

一週間前に初めて会ったとは思えないほど僕たち二人は会話がかみ合い、傍から見れば本当に仲の良い友人同士か兄妹と間違えられるかもしれないほどだった。

僕が冗談を言うと、九宝さんは必ずと言っていいほど笑ってくれた。

ここまですぐに打ち解けた人は、生まれて二十五年間で僕の記憶の中にはいなかった。



車内がそういう雰囲気だったので、津競艇場にはあっという間に着いてしまった。



駐車場に車を停めて、九宝さんの後につく形で入場ゲートへと歩いた。

入場ゲートを目の前にして入場料が百円取られるということを知り、慌てて財布を取り出そうとする。


「乗せてくれたお礼」


遠慮をする暇すら与えずに彼女は僕のゲートの投入口に百円を入れて、そのまま自分のゲートを潜って先に進んでしまった。

それを追いかけるようにしてゲートを潜り、彼女の行為に甘えて財布をジーンズのポケットへと押し戻した。

少し先で待っている彼女は風で靡く髪を指で絡ませ、どこか「よろしい」というような表情をしてこちらを見ていた。
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