あきらめられない夢に
「そういえば、今日は稽古だったな」


「おいおい、『そういえば』は無いだろ」


突然思い出したように呟き、そのことを忘れていたと思われたのか彼女に突っこまれてしまった。



膝の上で両手を組み、前を真っ直ぐと見つめた。


「公演も近くなってきたし、順調?」


近くなってきたといっても、まだ一ヶ月もある。



馬鹿にされるかもしれないが、僕は演目が決まれば一ヶ月くらい稽古して公演を行うものだと思っていた。

実際にその流れで行う劇団もあるらしいが、○○○(さんじゅうまる)劇団では違う。

最低でも半年は時間を掛けて、しっかりとした稽古をした上で公演を行うのだ。

それがつぐみさんの父でもあり、団長さんの拘りらしい。

だから、○○○劇団の公演は年に二回行い、その年によっては一回のみのときもある。


「まあまあ」


可もなく不可もなくといった返事をして、彼女は足を揺らし始めた。



最初の頃は愚痴や悲観的なことばかり口にしていた彼女にとって、不可もない返事はかなり順調にきているという解釈でいいだろう。

僕はそれに対して「ふうん」とだけ呟き、大きく息を吐いた。


「あのさ・・・」


彼女にはもう一つ聞きたいことがある。

稽古が順調なのは僕も立ち会っているから分かりきったことであり、どちらかといえば次に口にすることのほうが重要なのかもしれない。
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