あきらめられない夢に
稽古が終わり、アパートへと帰宅する。

部屋の明かりをつけ冷蔵庫を開け、ビールのストックを確認する。



四本・・・



二人で飲むには物足りない気もするが、もう一度車を出して買いに行くという気持ちにもならなかった。



そのまま洗濯機から洗濯物を取り出し、ベランダの物干し竿に干している最中に部屋のベルが鳴った。


「開いているよ」


確認しなくても相手は分かっている。

特別に迎えるわけでもなく、洗濯物を干す作業を続けた。


「お邪魔します」


中身が一杯に入ったスーパーの袋を提げて、つぐみさんは玄関のドアを開けて入ってきた。

その袋が重そうに見えたので、慌てて玄関へと足を運び、彼女から袋をもらった。


「あっ、ちょうど物足りないかなって思っていたんだ」


袋から真っ先にビールを取り出し、冷蔵庫へと移動する。

彼女は「もう」と頬を膨らませながらも、その他の中身を取り出してまな板の上に乗せていった。

僕はその作業を邪魔しないように、ビールを二本だけ持ち出して部屋のテーブルの上に置いた。



一本開け、きゅっと一口飲むと、今日一日の疲れが吹き飛ぶような思いだ。



ビールを飲みながら、彼女が晩飯を作る姿を眺める。



これが僕にとって、まさに至福のひと時だった。

そんなひと時にテレビの音や雑音などは一切無用で、彼女が料理する音だけが部屋に響き渡る。

これだけでビール一本は飲み干せるだろう。
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