あきらめられない夢に
高速道路を走る車内は静かだった。



その静けさが、最悪なことばかりを連想させる。

けれども、それを嫌って何かを話そうとしても、やはり口から出そうなのは同じようなことだった。


「しかし、娘が大変だってのに、親が行かないってどういうことだよ」


その静けさに耐えられなかったのだろう。

しびれを切らして、沢良木が車内の沈黙を破った。


「仕方ないよ。あいつの家、旅館だから。

週末に二人が抜けるわけにはいかないんだろ」


窓の外を眺めながら発した声は、自分でもはっきりと分かるほど力の無いものだった。

暗闇に高速道路の脇に設置されている外灯がオレンジ色に輝いている。

口を半開きにして流れていくそれを眺めているだけで、僕は抜け殻のような状態になっていた。


「でもよ・・・」


「『自分たちのことは二の次、三の次。常にお客さま第一』。

あいつが高校時代のときに、よく言っていたよ。

『それが旅館を営むことなんだ』って」


高校時代


あのときの上越に将来の選択肢として、旅館の女将は無かったのだろうか。

少なからずとも、両親から話はあったはずだ。



しかし、上越は競艇選手になった。



競艇選手になっていなかったら、こんな目にも遭うことはなかっただろう。
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