あきらめられない夢に
今、そのことを上越の両親は思っているのだろうか。



そして、上越自身も思っているのだろうか。


(いや、考えが暗すぎるだろ)


もしかしたら、つぐみさんの聞き違いで大怪我ではなかったのかもしれない。



もしかしたら、上越の両親が慌てて聞き間違っただけかもしれない。



これが今の僕にできる、精一杯のプラス思考だった。



窓の外から視界を外し、バックミラーでつぐみさんの表情を覘き見る。

やはり、つぐみさんも俯いた状態で、心配そうな表情をしていた。



こんなときに何かひと声でも掛けてこの空気を変えられればいいのだが、そんな芸当を僕が持ち合わせているはずもなかった。

窓の外に視界を戻し、つぐみさんの表情に気付かなかったふりをする自分が酷くもどかしかった。

もし、この場に僕しかいないのであれば、窓を全開にして大声で叫んでいるだろう。

それができずに、余計にもどかしさが募るばかりであった。



せめて上越の前に立ったときくらいは、何か気の利いた言葉や態度ができるようにしておきたい。

僕は必死になって上越に掛ける言葉を頭の中で探し、思いついた言葉をただひたすら頭の中で繰り返していた。



結局、車内は静かなままひた走り、そのまま近畿自動車道を下りた。

上越の母親から聞いた病院が、もうすぐ近くにあることをナビは僕たちに告げていた。
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