あきらめられない夢に
何でもいいから言葉を掛けなければいけないと考えているところに、廊下から足音が聞こえ、ようやく二人が病室に到着しようとしていた。


「馬鹿。心配したんだぞ」


その言葉と同時に病室のドアが開き、上越はもう一度ぎこちない笑顔をして自分の足のほうへと視線を向けた。


「ごめんね。

でも、こうして命には別状は無かったし、怪我自体で選手生命を経つようなことは無いって医者も言っているから・・・

ただ、転覆したときプロペラに膝を巻き込まれただけだから」


「・・・」


「・・・平気」


嘘だ。



僕たちに視線を合わせずに、間を置いてからのその言葉は本心ではないだろう。

競艇のプロペラはかなり鋭利で、それが高速回転をしている。

巻き込まれたら「平気」と言えるような怪我では済まないことは、詳しくない僕にでも容易に分かることだった。



ふと、上越のベッドの奥にあるものを見てしまった。

それは真っ赤に染まった包帯のようなもので、慌てて上越の足に目を向けるとギプスのようなもので固定されていて、それがあまりにも頑丈にされていて驚く。


「おまっ」


叫びかけたところで、後ろから僕の肩に乗せる手の感触。



沢良木だった。


「どうする?うちらは傍にいたほうがいいのか、いないほうがいいのか。

遠慮なく言ってくれよ」


何言っているんだよ


そう口に出そうとするが肩に乗っている手の力が強く、まるでそれ以上は言うなと合図をされているようだった。
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