あきらめられない夢に
「折角来てくれたところ本当に申し訳ないけど、今は一人にしてほしいかな。

人には見られたくない私も出てきちゃうし」


痛みや悲しみで苦しむ上越の姿を想像するだけで、胸が破裂しそうなくらい痛くなった。

それでも、上越はこれよりももっと痛いのだろう。

それを普通の状態で堪えられるわけがないということに気付き、女であるならそんな姿を人になど見られたくないものだと咄嗟に思った。


「そっか。じゃあ、俺たち行くな。

また、日を改めて来るわ」


「うん。両親には『大丈夫』とだけ伝えてもらえればいいから」


(どうか、上越が少しでも眠れますように)


病室のドアを出る間際で、神様に祈るようなことを形だけでも思った。

それだけが、今の僕にできる精一杯のことのような気がしたのだ。


「宮ノ沢くん」


ドアを少し出たところで呼び止められ振り返ると、上越は僕とは正対せずに窓のほうに体を向けていた。


泣いている


隠しているつもりだろうが、窓にその表情が反射されて僕の視線に入ってきた。

それでも、僕は気付かないふりをした。


「来てくれて、ありがとう。

そして、さっきは下の名前で呼んでくれて・・・嬉しかった」


僕自身は呼んだかどうか覚えていない。

きっと、無意識だったのだろう。

それでも、傷ついた上越を少しでも癒せたのなら、それはそれで良かったのかもしれない。


「また、落ち着いたら連絡してくれよ。

すぐにでも来るから」


彼女はゆっくりと頷き、それを確認して病室を後にした。
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