あきらめられない夢に

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いつもは車通りが激しい県道だが、今日はたくさんの人で埋まっている。



ねぶた飾り車がパレードの出番を今か今かと待ちわび、イベント広場では太鼓演奏が鳴り響く。

様々な露店に群がる子供たちに、それを笑顔で見つめる大人たち。



一年のこのとき、伊勢が一つになる



上越が怪我をしてから、一ヶ月が経とうとしていた。



つぐみさんとは変わらずに会ってはいるものの、二人の間にはどこかぎこちない空気が流れていた。


「去年は来なかったから、伊勢まつりに来たのは凄い久し振りだよ」


彼女は「そう」と呟いたあと、いつもと変わらないように話を続けた。

話すことはいつもと変わらないのだが、どこか今までと違うと感じてしまうのは、僕の意識が過剰になってしまっているからなのだろうか。


「まくりちゃんは元気?」


この質問をされるたび、彼女は上越と連絡を取り合っていないのだろうかと思う。

だとしたら、上越がいる場所が病院ということを気にして取らないのか、意識的に取らないのかと考えてしまう。


「痛み自体は無いから、もう少し様子を見てから退院できるって」


とは言うものの僕自身も病院というものに遠慮して、電話は控えてメールでのやり取りになっている。

そのため実際に声を聞いていないので本当に元気になったのか、こちらに気を遣っているのか僕も分からない。

今はただ、上越から送信されてくるメールの文章を信じるしかないと言ったところか。
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