あきらめられない夢に
「すげぇ」


銀色に輝く水面。



ただそれだけなのに、その光景は僕の胸の奥にまで入っていった。

ただ水面だけならば海や湖と変わりはない。

しかし、それらとは違うものが僕の心を奪っていた。



茫然と立ち尽くしていると、一艇のボートが僕の目の前を通過していこうとしていた。

エンジンの音が予想していたよりも大きく、そのボートを僕の視線は柵に身を乗り出して追いかけていた。


上越


そのボートの右側に貼り付けてあるプレートには確かにそう表記されており、恐らくそれは乗っている選手の名前なのだろうと解釈した。

この銀色の水面を彼女は駆け巡り、そして何度もターンを繰り返していた。

他のボートも水面に出てきては僕の目の前を同じように駆け抜けていったが、最初に見た衝撃が大きかったようで彼女のボートだけを目で追っていった。


しばらくするとボートは水面に一艇もいなくなり、エンジンの音で賑やかだった水面に静けさだけが残った。


「あっ、いた」


後ろから九宝さんの声がし、振り返ると手には何かの紙切れを持っていた。

表情は少しご機嫌斜めといったようで、やはり先ほどの僕の声は彼女の脳にまでは届いていなかったようだ。
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