あきらめられない夢に
信じられなかった


その日、僕の目の前に現れたのは、中学生のころから好きな監督だったのだ。

何度か雑誌で顔は見たことはあったが、まさか目の前に存在し、言葉を交わす日がくるとは思いもしなかった。


「あなたの作品を目に見える形にする機会を、僕にください」


眼鏡が落ちそうなくらいの勢いで頭を下げ、背筋が真っ直ぐに伸びそうなくらい大きな声だった。

その勢いに押されて、彼の作品のDVDを全て持っているということを言いそびれてしまった。



三時間ほどで顔合わせは終わったが「これから、もっとたくさん話をしていきましょう」と握手を求められ、それと同時にパソコンのメールアドレスと、携帯電話の番号が書かれた名刺を受け取った。

生憎、今の仕事には名刺というものは必要が無いため、そのときの僕が持っているはずもなかった。

慌ててそこにあったメモに自分のアドレスと電話番号を記入し、形を崩さないように監督の手へと渡した。


「三時間だったけど色々と話を聞いて、凄く勉強になったよ」


右の拳を力強く握り締める。

監督が僕に言ってくれた、あの言葉を思い出したのだ。
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