あきらめられない夢に
「監督に作家を目指してみないかと言われたんだ。

出版社の知り合いを紹介するから、本格的に作家を目指してみないかって」


そう言うと、ようやく彼女は面と向かって笑ってくれた。


「宮ノ沢くん、やっぱり才能があったのよ。

凄いね、このまま前に進んで、私なんか置いていかれてしまいそう」


彼女のその言葉は、僕から言わせれば『らしく』なかった。


そんなことないよ


この言葉が口から出したかったのだが、喉の奥につっかえるように出てこなかった。


「正直、迷っている。

出版社の人を紹介してもらえるのは嬉しいけど、そういうのってフェアじゃないような気がする。

上手く言えないけど・・・」


結局、出てきた言葉は自分のことだった。

情けない、その言葉が突き刺さったように胸が痛くなった。


「でも、まずは『あきらめられない夢に』だよ」


力強く言ったつもりだったが、思いのほか声は小さかった。

彼女はそれよりも更に小さく笑い、僕たちは静かに屋台を見て回った。
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