あきらめられない夢に
ゆっくりと歩いているうちに日は段々と沈み、空は夕焼けの茜色から黒く染まり、星空が散りばめられつつあった。

その変化と同じように僕たちは賑やかな大通りを抜け、小川が流れる小さく静かな道へと入った。

祭りの明かりがぼんやりと水面に反射し、涼しい夜風が気持ち良かった。


「つぐみさんっ」


少しだけ前を歩く彼女の足を止めるように、今度こそ力強く発した。

彼女は振り向かずに、そのままの姿勢で立ち止まった。

そう遠くないはずなのに、祭りの音が遠ざかっていくように感じる。

唇をきゅっと噛みしめ、僕は意を決した。


「自分の気持ちを上手く何かに例えられないし、上手い言葉が出てこないから素直に言うよ」


彼女の全てが僕は好きだ。


「つぐみさんが好きなんだ。

結婚してほしい」


胸が張り裂けそうだった。



今日の朝方まで考え続けたが、結局、小説やドラマに出てくるような言葉は僕には出てこなかった。

いや、出てきたとしても、それは僕が言うような言葉ではなかった。


この思いを素直に伝えよう


そう心に決めたのは、朝陽が昇ってしばらくしてからのことだった。
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