あきらめられない夢に
「とにかく、公演まであと一週間なんだよ。

お前が来ないと団長も最終チェックができないんだよ」


「おう、お前ら」


プレハブ小屋のドアの前まで来たところで、後ろから主任が声を掛けてきた。

今日は有給を取ったドライバーの代走をして、それから戻ってきたようだ。


「そういえば、お前ら公演もう少しだったな。

頑張れよ」


そう言って、沢良木の派手なポニーテールを鷲掴みし、豪快に笑った。



自慢のポニーテールを掴まれてか、沢良木は明らかに不機嫌そうな表情をしてその手を振りほどいた。


「女の髪に気安く触るなよ。

それに演劇の素人は黙ってな」


両手を組み、胸を張って得意げに言うその姿は自身に満ち溢れているようだった。

よほど仕上がりがいいのか、それとも主任の前だから強がっているのか。

どちらにしても、沢良木らしくて少しだけ笑ってしまいそうだった。


「あれ、そういえば」


主任と目が合った。



春先の○○○(さんじゅうまる)劇団の公演が終わったあと、主任と会場で出くわしたことを思い出した。

あれからしばらくは気に留めていたが、今になってはすっかり忘れてしまっていた。


「主任、春先に会場にいましたよね。

確か団長と知り合いって言っていましたけど、どういう知り合いなんですか」


一度思い出すと、あのときのことが事細かに思い出される。

確かにあのとき主任は、団長とちょっとした知り合いと言っていたはずだ。
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