あきらめられない夢に
通しの稽古が終わり、団長が団員一人一人にアドバイスを送っている。

みな真剣にそれを聞いており、団長がアドバイスを終えると、周りからも次々とアドバイスや要望などが飛び交いだす。

この劇団の最終公演なのだから、全員がいい舞台にしたいという気持ちが伝わってくる。

その輪の中に沢良木も一緒になって入っている。

果たして、今の僕は輪の中にいるのだろうか。


「お疲れ」


小さく呟くようにつぐみさんは僕に言葉を掛け、横を通り抜けてすぐに帰り支度へと入っていった。



僕がこんなことを思うのは失礼だと分かっている。

それでも、思ってしまう。



もしかしたら僕だけではなく、彼女も輪の中に入れていないのではないか。



今まで劇団を引っ張ってきたともいえる彼女が、今、みんなの輪の中に入れていないと思うと凄く苦しくなる。

そして、その原因が僕であることが更に苦しくさせる。


「宮ノ沢くん、このあと時間はあるかい」


苦しみから解放されるような声。



振り返ると、団長が台本を片手に笑顔で立っていた。

その笑顔はつぐみさんにそっくりで、やっぱり親子だなとこんなときに思う。


「はい。一応、何も用事はないので平気です」


そう言うと笑顔が更に広がり、満面の笑みへと変わっていった。

台本を持ったまま両手を叩いて合わせ、二度頷いた。


「よし、二人で食事をしよう」


そのまま僕の後ろに向かって、食事はいらないことを告げた。

僕が少々困惑していると、団長は肩をぽんと軽く叩いて「ちょっとだけ外で待っていてくれ」と、稽古の後始末へと戻っていった。

いつもなら手伝う後始末も、手伝いもせずに団長の言葉通りに外で待つことにした。
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