あきらめられない夢に
「ごめん、ごめん」


彼女が何かを言う前にこちらが先手を打って謝り、少しばかり機嫌を取り戻そうとした。

それが成功したのか彼女は小さくため息をつき、いつものように上品に笑い向こう側を指差した。


「行こっ。

一マークで見たほうが迫力があるから」


一マークと言われても何の事だか分からなかったが、分からないからこそとりあえず彼女についていくことにした。

その間も水面を見つめ、風が運んできてくれる仄かな潮の香りを感じる。

先ほどまで居心地が悪いとさえ思っていたことが、まるで嘘のようだった。



前を歩く彼女が足を止め、どうやら一マークに着いたらしい。


「あれがターンマークって言って、あそこを中心にして選手がターンするからここで見るのが一番迫力があるよ」


銀色の水面を背景に嬉しそうに話す彼女がとても眩しく映り、思わず見とれてしまいそうだった。



しかし、不意にファンファーレが鳴り響き、水面に再びエンジンの音が戻ってきた。


「始まったわよ。

最初はコース取りっていって、スタートのコースを決める時間なの」


彼女の目の輝きが更に増し、憧れのスポーツ選手を見ている子供のように見えた。

子供のようなのに、それでもどこか大人びた雰囲気を持っている不思議な人だ。
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