あきらめられない夢に
その一人は口に出さずと分かっているつもりだ。

そして、出来る限りは僕の口からは名前を出したくはない。

けれども、団長はまるで僕の口から言えと諭すように、じっとこちらを向いて視線を外さない。


「・・・つぐみさんですか」


その視線に負けて、僕は口に出してしまった。



僕の口調を聞いてか、それとも表情を見たのか。

どちらが原因か分からないが、団長は大きくため息をついた。


「どうやら一人だけだと思っていたが、君も含めて二人のようだね」


「・・・すみません」


「謝ることはないよ」


注文した料理を一気に三品とも店員が持ってきて一気にテーブルの上は賑やかになったが、二人の空気は依然として張り詰めたままだった。


「いや、すまない。

ついつい悪い癖が出てしまった」


料理に箸をつけながら、団長は笑顔に戻った。

その笑顔を見て、僕も笑顔になる。

普段が笑顔でいることが多いので、先ほどの表情をされると見慣れないせいか、思わず背筋が伸びてしまう。


「つぐみには言っていないけど、君には言っておこう。

私がこの劇団の最終公演の演目を、何故つぐみに決めさせたか」


言っていることは、さっきと同じ種類のような言葉だと思う。

だけど、表情が柔らかい分だけ、さっきのような張り詰めた空気になることはなかった。
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