あきらめられない夢に
「あの娘の演技力は親子ということを差し引いても、劇団の中では飛び抜けている。

恐らく、あそこまでの演技力は、プロを除けばそう多くはいないだろう。

僕はね、そんなあの娘の百パーセントの演技を見たいんだ。

誰かが決めた舞台で、誰かが決めた役をするのではない。

心から自分がやりたいと思うことをやった、百パーセントの演技をこの目で見てみたい」


遠くを見つめるようにして話す団長の瞳には、百パーセントの演技を見せるつぐみさんが映っているのだろう。



目を閉じて、僕もそれを想像する。



今までの演技力でも圧倒されたというのに、それを更に上回る演技力。

僕には想像もつかないが、きっと言葉では表せないようなものなのだろう。


「今日、あの娘は稽古中にミスをしたね」


目を開け、目の前にいる団長に視線を向ける。

ゆっくりとジョッキの中身を喉に通し、乾杯のときは違って小さく息を吐いた。


「あのときも・・・そうだった」


「・・・」


「宮ノ沢くん、つぐみのことは好きかい?」


「はい」


「想いを伝えたかい?」


「はい」


「駄目だっただろう?」


「・・・はい」


「やはりな」


両手を膝の上に乗せ、下を向いたまま僕は黙り込む。

僕からは何を話していいか分からず、団長が次の言葉を出すのを待つことにした。

例え、それが僕に対して厳しい言葉だったとしても、それを受け入れなければいけない覚悟を決めようとしていた。
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