あきらめられない夢に
「やっと、戻ったな」


下を向いている僕の右肩に左手を置いて、プレハブ小屋へと足をゆっくりと進めた。

前を向き直し、同じ歩調でプレハブ小屋へと向かう。

夕日が僕たちを照らし、青春ドラマのワンシーンみたいで、僕は思わず笑ってしまった。


「不器用だけど何事にも一生懸命で、前へ前へと進もうとする。

それでいていつも笑っている。

そんなお前が俺は・・・」


そこまで言うと、彼女は僕の肩から左手を離して立ち止まった。

「へっ」と小さく笑い、片方の耳朶を抓んで離し、僕の顔の前に自分の顔を近づけてきた。


「いたっ」


その距離に少し戸惑っていると、彼女は遠慮なく僕にでこぴんを一発お見舞いしてきた。


「頑張れよ」


そう言って、今度は足早にプレハブ小屋へと戻っていった。

折角、「女らしくなっているよ」と伝えようと思ったのだが、これでは伝える日が来るのはまだ近くはなさそうだ。



彼女が何に対して「頑張れ」と言ったのかは定かではない。

それでも僕は嬉しくなって、自分の心に「頑張ろう」と笑いながら言い聞かせた。


「おい、宮ノ沢。

もう定時になったんだから、さっさと着替えて、何か食べてから明日の準備に行こうぜ」


プレハブ小屋の窓から身を乗り出して叫ぶ彼女に、僕は小さく呟いた。


「お前の奢りな」


そんな呟きなど聞こえるはずもなく、彼女は上機嫌にカーテンを閉めて着替え始めた。
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