あきらめられない夢に
その姿を見届け、僕は公園へと入り、その人物へと近づいた。



ゆっくりと近づいたつもりだったが、どうやら僕に気付いたようで体をこちらに正対してきた。



「お久しぶりです。

忙しい時期なのに、まさか東雲(しののめ)先輩が本当に来てくれるとは思いませんでした」


言葉よりも先に、先輩の腕が力強く僕の肩を叩いた。

あまりにも強く叩かれたので思わず体がよろめいてしまったが、このスキンシップも懐かしくて嬉しさを増させた。



肩幅がごつく、筋肉質な体に、芸能人顔負けのこぼれるような白い歯。



その全てが、何一つ変わっていなかった。


「元気そうだな」


「おかげさまで」


こうして先輩と二人して並ぶのは、去年の夏以来。

そんなことは当り前なのだが、不思議と今まで毎日のように並んで歩いていたような気がする。

先ほどは懐かしく感じたのに、今はいつも通りと感じている。

先輩の人柄といえばいいのか、それとも僕たち二人の関係がこういうものなのか、言葉で表現するには難しい。


「もう一本だけ付き合えよ」


ポケットから煙草を取り出し、先ほどまで僕とゆっこがいた灰皿のある場所を指した。

僕の返事も待たずに先輩は歩き出し、僕は小さく吹き出した。


「もちろんですよ」


そんなに距離はないのだが、先輩に離されないように早足で追い付く。

今はこうして先輩と並んで歩きたい、そんな気持ちが僕の歩調を速めた。
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