あきらめられない夢に
話したいことがたくさんありすぎて、何から話していいのか分からない。

こっちに帰ってきて全てのことを話してもいいのなら、迷わずに僕はそうするだろう。

しかし、全てを話すにはあまりにも時間が少なすぎる。


「頑張っているんだな」


その瞬間、僕の頭の中にある全ての考えが消し去られたような気がした。

全てのことを一から話さなくても、会社を辞めた僕が頑張っていることが分かればいいのだ。

きっと、頑張っていることを伝えれば、先輩を少しは楽にしてあげられるだろう。


「ぼちぼちです」


笑って答えると、先輩は下を向きながら一緒に笑っていた。

「はい」と答えようとしたが、僕の口からはあの頃と同じ答えが出てきたのだ。

あの頃の二人で過ごした日々が、頭の中を走馬灯のように流れている。



それでも今は新しい道を歩いていて、新しい仲間がいる。

そして、大切にしたい人がいる。


「そういえば」


何かを思い出したように先輩は鞄に手をやり、その中身から紙袋を取り出した。


「これ、マスターから」


受け取ると、その紙袋からは懐かしい香りが漂ってきた。


アリエスの香り


中を開けると、そこにはコーヒー豆が紙袋一杯に詰め込まれていた。
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