あきらめられない夢に
それから僕はずっと水面と、そこを走るボートだけをひたすら眺めていた。

レースの合間に何艇も水面に出てくるのは、『試運転』といって練習やエンジンの調整のためだと彼女は教えてくれた。

六レースと七レースも僕は夢中になってボートを目で追いかけ、レースが終わるとため息を漏らして余韻に浸っていた。

その横で彼女は六レースでは悔しがり、七レースではまた嬉しそうにしていた。

その彼女を見るのも楽しみの一つになっていることは内緒にしておくべきだろう。


「次はいよいよまくりちゃんの出番よ」


八レースが始まる直前、舟券を買い終えた彼女はいつもよりも鼻息を荒くして僕の横に立った。

上越も他の選手と同じようにレースに参加し、そして一マークに向かってターンをする。

他の人にとって当たり前のことが、それが自分にとって身近な人がするということで先ほどまでのレースとは違った緊張が姿を現す。


「四号艇、青色よ」


ファンファーレが鳴り響き、僕の視線は青色のボートに釘付けになった。

コースは四コースになり、一から三コースまでの三艇よりも随分後ろから助走を始めた。



スタートしてこちらに近づきながら青色のボートはハンドルを内側に力強く切る。

またしても銀色の水しぶきが上がり、水煙が晴れるのと同時にターンマークで一コースの選手の外側を速いターンで抜き去っていった。
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