あきらめられない夢に
「心配していたぞ。

お前のところに行くって言ったら、『これ、持っていけ』って、相変わらずの無愛想な顔で言われたよ」


いつも見せていたマスターの無愛想な表情を思い出し、思わず笑ってしまった。

コーヒー豆に目をやり、そんなマスターが心配してくれていたと思うとたまらなく嬉しかった。


「お礼と、無くなったらまたお願いします、って言っておいて下さい。

そして、俺は大丈夫です、ということも」


紙袋を力強く握り締め、先輩の後ろにマスターがいるつもりではっきりと言った。

もちろん、そこにはマスターなどいるはずもなく、誰もいない公園と、その真上に広がる青空だけが映し出されていた。


「『自分で取りに来い』って、言われるに決まっているだろ」


先輩のマスターの物真似があまりにも似てなくて、二人で大笑いした。


「マスターに怒られますよ」


「やっぱりか」


もう一度、二人して大笑いする。
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