あきらめられない夢に
気持ちの良い青空の下で、いい歳をした男二人が気持ち良いくらいに大笑いしている。

そんな光景を頭の中で思い描くと、それがまた可笑しくて一層笑い声が大きくなった。


「というか、これ鞄の中に入れたら、めちゃくちゃ匂い染みついたんじゃないですか」


「ああ、すげえコーヒー臭くなったよ」


呆れたような表情で鞄を指差し、もう一つの手で煙草を取り出す。



そのとき、会場の入口から劇団の団員が僕を呼び出した。

時計を見ると開演三十分前になっていて、任されていた受付の仕事を放棄しそうになっていた自分に気付いた。


「すみません、そろそろ時間なんで」


先輩は煙草を咥えたまま、掌をひらひらとさせて「行けよ」と呟いた。

もう少しだけこうして先輩と二人で話していたかったが、団員にこれ以上迷惑を掛けるわけにもいかないので小走りで戻る。


「宮ノ沢」


その声に立ち止まり、振り返ってみると、満面の笑みで先輩が右手の親指を立てていた。


「今日は楽しませてもらうぞ」


(ああ、こういうところがいいんだよな)


これこそが、僕が先輩を慕っている一番の理由なのかもしれない。


言葉では表せないが、先輩のこういうところが僕は好きなのだ。


「はい。楽しんでいってください」


僕も一緒になって親指を立て、すぐに振り返って走って受付へと戻っていた。
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